この記事は、遺言書を作成しようとされている方及び遺言書により共有となった不動産を分割したいと考えられている方のために書きました。
共有物分割訴訟と遺産分割調停のどちらを選択すればよいか教えてという質問をいただくこともあるので、その問いに対しても答えました。
遺産共有と物権共有
共有は、遺産共有と物権共有に分けられます。
遺産共有とは、相続による共有で(民法898条)、遺産分割の合意により解消、または、物権共有の状態になるいわば、過渡的な共有です。
物権共有は、遺産分割の合意による生じる共有及び複数人が共同で不動産等を購入した場合等に生じる共有です(民法249条外)。
遺産共有と物権共有の差異は、遺産共有の場合は共有の解消手段が遺産分割調停及び審判であるのに対し、物権共有の場合は共有物分割の訴訟であるという共有を解消する法的手段が異なることです。
遺産共有と物権共有の判別
通常は、遺産共有と物権共有の判別は容易なのですが、難しくなる二つの場合があります。
一つは、不動産登記に相続の登記が行われている場合です。
この場合は、既に遺産分割の合意がある場合は物権共有、遺産分割の合意がない場合は物権共有となりますので、登記の記載だけで、決めることができません。
ただ、この場合は、遺産分割の合意があるかないかという事実の問題なので、相続人に聞くことができれば(たまに覚えていないという方もいらっしゃいますが)わかります。
問題は、遺言書により不動産が共有で相続された場合です。
遺言書により不動産が共有で相続された場合
遺言書により、不動産が共有で相続された場合は、遺言書の記載方法によることになります。
ただ、この場合は、判例、裁判例がほとんどなく、明確な基準がなく、後記のようにいくつかの考え方があることから、共有物分割訴訟の場合は、その判断がどのような考え方の裁判官が担当するかにより変わることになり、弁護士でも対応に注意しなくてはなりません。
私の経験した事案で、相手方の弁護士が本来、遺産分割調停を申し立てるべきだったのを、共有物分割訴訟を提起してしまい、私がその旨主張した結果、裁判官の指揮により、相手方が訴訟を取り下げることになったものがあります。
財産を複数の相続人に割合的に相続させる内容を記載した遺言書
まず、前提として、この問題が生じる遺言書は、特定の財産を特定の一人に相続させる遺言書ではなく、財産を複数の相続人に割合的に相続させる内容を記載した遺言書です。
具体例で、説明しますと、相続人がA、B、Cの3人とします。
自宅の土地・建物(不動産)、預貯金1000万円及び宝石などの動産が相続財産です。
遺言者は、全財産を、A、B、Cに各1/3の割合で相続させる内容の遺言書(特定財産承継遺言:遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言)を残したとします。
これについては、以下のようにA~Cの3つの考え方があります。
A説 上記のような割合的「相続をさせる」ことを目的とする遺言は、遺言者としては、受益の相続人に対して個々の遺産について一定割合を取得させる意思であるというより、全部の遺産のうち一定割合による価値に相当する財産を取得させる意思であるとみる方が素直な解釈であり、共有解消の手続きとしては、共有物分割手続きよりも、遺産分割協議等の方が柔軟な分割方法が採れることからしても、単なる相続分の指定とみて改めて遺産分割協議等により権利関係の確定をすべきであるとする考え方((司法研修所編「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」69~70頁、東京地裁平成4年12月24日判決判時1474号161頁外)。地方裁判所の裁判官は、この考え方の人が多いように思われます。
このA説の考え方の場合は、①「全遺産が一筆の不動産のみである場合」、②「他の動産等の区別し不動産ごとに各相続人の持分を定める場合」、及び③「相続人ごとに、その相続財産を定める場合」については物権共有となり、「不動産とともに遺言者の所有する動産、売掛債権その他の財産を一定の割合で相続人らに相続させる」場合は遺産共有と解釈されることになると考えられます。
B説 「共有持分は・・・割合」、「共有持分・・・割合にて」、「持分均等の割合で」という用語が用いられている場合には、共有取得させる趣旨と解することができるとする考え方(蕪山嚴著「遺言法大系Ⅰ(補訂版)114頁」)。
C説 「相続させる」との文言を用いているのであれば、遺産分割手続を経ることなく、受益相続人が被相続人死亡時に直ちに当該財産を相続により承継する(物権的に取得する)効力を生じる。そして、「割合的相続させる」の文言に引き続いて「具体的な財産の分配については相続人の協議によって定める。」との文言が付加されているなどの特段の事情がない限り、列挙された個々の財産及びその余の一切の財産につき、遺産分割手続を経ることなく、記載された割合での共有ないし準共有とする趣旨とする考え方(片岡武外著「改正相続法と家庭裁判所の実務」192頁以下に引用された東京公証人会の見解)。
B説及びC説は、公正証書を作成する公証人の見解です。ただ、前記の私の経験等からしても、共有物分割訴訟を担当する地方裁判所の裁判官全員がこのB説又はC説に従うかどうかは疑わしいと思います。
物権共有を望む遺言書の書き方
現時点での対応としては、遺言書を作成する場合であれば、もし、物権共有を望むのであれば、A説に従い、他の動産等と区別し不動産ごとに各相続人の持分を定めるか、又は、相続人ごとにその相続する財産を定めるべきだと思います。
また、既に、遺言書があり相続が開始されている場合は、その遺言書の記載等を考慮し、共有物分割訴訟を選ぶか、遺産分割調停を選ぶかを選択し、さらに、その中で、どのような主張を行うかを考えていく必要があります。