被相続人の家業について労務の提供をした場合、家事従事型の寄与分が認められる場合があります。
農業、漁業、小売業等のほか、各種の製造業、加工業、小売業、医師、税理士等の家業を手伝っている場合です。
認められるための条件(法律では、「要件」といいます)は、以下のとおりです。
(1) 被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を越える特別な寄与があること
家事従事型で、特別な寄与が認められるためには、次のア~エが認められることが必要です。
ア【特別な貢献】
被相続人との身分関係に基づき通常期待される程度(扶養義務)を超える寄与であることが必要です。
被相続人との身分扶養関係、労務を提供するに至った事情等を主張することが必要です。
被相続人と寄与主張者が夫婦の場合は、扶助等の義務(民法752条)があるため、寄与行為があっても、同義務の範囲内として、特別の貢献とは認められない場合も多いです。
また、寄与主張者が子供の場合も、電話当番等簡単な手伝いの場合は、「特別」とは認められません。
イ【無償性】
全くの無償か、著しく低い給与であることが必要です。
ただし、家業に従事するにあたって、相続人が生活費、給与等の報酬を受けていないケースはまれですので、ここでいう無償は、第三者を雇用した場合の給与等との比較となり、それより、著しく低い額の場合は、認められ、同じ程度の金額の場合は無償性が認められないことになります。
ウ【継続性】
状況によりますが、少なくとも3~4年程度は継続していることが必要でしょう。
エ【専従性】
片手間ではないことが必要です。週1~2回では難しいでしょう。
ただし、ここでいう専従性は専業とは異なり、他の業務に従事しているからといって、この要件が直ちに否定されるわけではありません。
(2) 寄与行為の結果として被相続人の財産が具体的に維持又は増加していること
法律上、寄与分は、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与(通常期待される程度)をしたものに対する制度です。
そこで、寄与分が適用されるためには、寄与行為の結果として被相続人の財産が具体的に維持又は増加していることが必要です。
家事従事型の場合、寄与主張者の能力により、事業が成功に導かれた等主張しても、事業の成功はいろいろな原因によることから、具体的な因果関係を裁判所が認めることはまずありません。
あくまで、給料を支払わずその分の支出を免れたという範囲で、寄与分が認められることが通常です。
【上記要件の立証】
上記の要件を立証するためには、まず、【特別な貢献】として、
①被相続人との身分扶養関係
②労務を提供するに至った事情
③労務提供の時期及び期間
④労務の形態及び内容
⑤報酬の有無、報酬を受けていればその金額
⑥労務の提供による財産上の効果
を主張することが必要です(基本は、他の類型も同じです)。
そして、これらの事実を立証するために提出する書証としては、
Ⅰ、当該家業の利益を立証するための確定申告書等経営内容のわかる資料、
Ⅱ、寄与の無償性を証明するため、給与台帳、給与明細書、確定申告書等給与の支払い状況が分かる資料、
Ⅲ、寄与の具体的な状況を立証するための寄与主張者等の報告書・陳述書が必要です。
よくある例で、被相続人の経営する会社への労務の提供があった場合ですが、会社に対する提供ですので、原則は、寄与分となりません。
しかし、家業が会社と言っても、被相続人の「個人企業」に近く、被相続人と一体性が強い関係がある場合などであれば、認められる余地があります。
【評価方法】
評価方法は、寄与主張者がその行為により通常得られたであろう給付額から、被相続人から受けていた生活費相当額を控除し、それに寄与の期間を乗じることによって算出します。
ただし、後で説明する寄与分の類型についても同じことですが、法律は、このように算出した金額を、裁判所の裁量により、自由に変更することを認めています(裁量処分)。
この裁量処分により、寄与分の金額が半分になったり、何分の1に減ってしまうこともあります。
このように寄与分の主張は難しく、寄与分の主張を行う場合は、弁護士にご相談下さい。