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先日、私の夫が50代で突然、病気で亡くなりました。
夫の相続人は、妻である私と、夫の前の結婚でできた子供です。
夫が勤務していた会社は、手続をすれば、退職金を出してくれるそうですが、この退職金は、相続財産として、前の妻の子と分けなければならないのでしょうか。 -
死亡する前に、退職によりすでに退職金を受領していた場合や、受領手続を完了しているが支給されていなかった場合、退職金が相続財産となるのは当然です。
しかし、上記のように、死亡によって退職し、これにより支給される退職金、いわゆる死亡退職金が相続財産に含まれるかは、問題となります。なお、相続税の観点からは、死亡退職金もみなし相続財産として、課税対象になりますので、ここでの回答は、実体法の観点から、死亡退職金が誰に帰属するかの問題についての回答です。
死亡退職金の法的性質は、賃金の後払いの性質、遺族の生活保障の性質などが考えられますが、賃金の後払いの性質を重視すれば相続財産と考えられる方向にいくことになり、遺族の生活保障の性質を重視すれば相続財産ではないとの方向にいくことになります。
実務としては、死亡退職金が相続財産かどうかは、下記のように具体的な事案に応じて個別に判断されることになります。死亡退職金が相続財産に含まれるかどうかを、判断するためには退職金についての支給基準、受給権者の範囲、順位が法令や就業規則等で定められている場合は、まず、その法令や就業規則等を検討します。
最高裁昭和55年11月27日判決(民集34巻6号815頁)は、特殊法人の従業員の事案について、その法人の
「右規定によると、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であって、配偶者があるときは子は全く支給を受けないこと、直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母や養父母については、養方が実方に優先すること、死亡した者の収入によって生計を維持していたか否かにより順位に差異が生ずることなど、受給権者の範囲、順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なる定め方がされているのであり、これによってみれば、右規定は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規定の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当であり、そうすると、右死亡退職金の受給権は相続財産に属さず」、
相続財産ではないと判断しています。つまり、民法は相続人の範囲を、例えば、内縁の妻は相続人に含まず、子供がいるときは配偶者と共に子供も相続人になる等規定しています。
しかし、上記法人の死亡退職金の規程では、これと異なる受給権者の範囲、つまり、被相続人の死亡当時その収入によって生活を維持していた者またはこれと生計を一つにしていた者を定めていることから、死亡退職金は遺族の生活保障のためのものであり、相続財産に属さず、受給権者である遺族固有の権利と結論づけているのです。
また最高裁は、県立高校の教諭が死亡した事案で、同人の遺言執行者が県に対し死亡退職金の支払いを求めた事案で県が右退職金を条例に基づき妻に支給すべきものであると主張したのに対し、県の主張を前記の判例と同様、死亡退職金の受給権は、受給権者たる遺族固有の権利であり、相続財産には属さないと判断しています(最高裁昭和62年3月3日判決 判タ638号130頁以下)。さらに、最高裁は、死亡退職金の支給につき全く規定がない財団法人の理事長が亡くなった事案についても、原審東京高等裁判所の判決が、
同財団法人が理事長の妻が理事長の生前同財団法人の厚生会の運営その他を物心両面に渡り支えた内助の功に報いるため、その形式として東京都職員退職手当に関する条例、同施行規則において配偶者が第一順位とされていることに倣った結果、妻に本件退職金を支給する旨の決議を行ったことから、死亡退職金は妻個人の資格で支給を受け取ったもので、相続財産ではない
と判断した内容を認め、上告を棄却しています(最高裁昭和62年3月3日判決 判タ638号130頁以下)。
このように、支給規定がない場合は、支給の経緯や従来の支給慣行等を検討し、相続財産に含まれるかを検討することになります。ただし、死亡退職金の支給基準、受給権者の範囲、順位が定められている等の場合、亡くなられた方の収入によって生活を維持していた者(遺族)の生活保障の観点からもうけられていることが多いと考えられるため、基本的には、相続財産に当たらないと考えられます。
相続財産にあたらない場合、特別受益に当たるのではないかという問題もありますが、遺族の生活保障の趣旨で相続財産にあたらないとした上で、特別利益の規定が適用されることは、あっても、かなり稀な場合と考えられます。
死亡退職金の相続における取り扱い
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