夫Aが亡くなりました。
夫と私Bの間には、C~Dの2人の子供がいます。
夫は、F家の跡取りとして、不動産・金融資産等所有していました。
私としては、CにF家をついでもらいたいと思っています。
とはいえ、Dの相続分がありますので、Dの相続分はDが相続するとしても、Aの遺産の内、私の相続分の財産を遺産分割協議でCに相続させたいと思っています。

ところが、Dは、それを知ってか、遺産分割協議に応じようとしません。
悪く考えると、遺産分割協議を行ってしまうと、私の相続分の財産は全部Cのものになってしまいますが、遺産分割協議が成立する前に私が亡くなれば、私の相続分の半分(Aの遺産の1/4)も結果的にDが相続することになります。

困ってしまい、知り合いに相談したところ、Aについての私の相続分をCに譲渡すればよいとのアドバイスをもらいました。
そうすれば、遺産分割協議を行わなくても、Bが私の相続分を相続できるということでした。
そこで、このような相続分の譲渡をしたいと思いますが、どのような問題がありますでしょうか。

仮に、相談者Bが亡Aの相続(一次相続)の相続分を無償でCに譲渡したとすると、相談者Bがお亡くなりになったことによる相続(二次相続)の際に、DはCに対し遺留分侵害額請求権(相続開始が2019年7月1日以前の場合は遺留分減殺請求権)を行使することが考えられます。
そして、この場合は、Bの行った「相続分の譲渡」は、遺留分額算定の基礎となる財産額に参入すべき贈与とされます(最高裁判所平成30年10月19日判決)。

相続分の譲渡は、実務では、①内縁の配偶者など本来相続人としてあつかってもいい第三者に遺産分割に関与してもらうため、②多数当事者の場合に当事者を整理するため、及び、③共同相続人の1人への譲渡のためなどに使用されています。

本設例の場合は、③の共同相続人の1人への譲渡のために使用された場合です。

本判決までは、一次相続で相続分の譲渡が行われた場合に、それが二次相続で遺留分算定の基礎となる財産額に参入すべき贈与にあたるかについて、裁判例も分かれていました
そのため、二次相続が予想される場合も③の目的で相続分の譲渡が使用されていました。知り合いの方のアドバイスは、相続分の譲渡が遺留分算定の基礎にならないとする考え方を前提にしたものです。

具体例で説明します。

本件で、Aの遺産が1000万円、Bには財産がないとします。
この状態で、BがCに無償で全部の相続分を譲渡すると、Cは750万円を相続し、Dは250万円を相続することになります。

このあと、Bが亡くなったとします。
Bには財産がありませんから、もし、上記相続分の譲渡が遺留分の算定基礎とならないとするとC、Dの相続分は0円で、DはCに対し遺留分侵害額請求権を行使できない(行使しても0円となります)ことになります。

これに対し、算定基礎となるとすると、DはCに対し、500万円×1/4=125万円(他の財産、特別受益、価格変動等もありますので概算です)の遺留分侵害額請求権を行使することができることになります。

本判決は、本設例のような場合について、「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係わる相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価格等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとは言えない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる」として、後者の結論を出しました。最高裁の判例ですので、最高裁の判例変更があるか、立法で変更されない限り、この結論が前提になります。

Aの遺産分割協議で、相続人3者間で、B:0円、C:750万円、D:250万円で合意した場合、Bが亡くなっても、DはCに対し、遺留分侵害額請求権を行使することはできないことは、この判例の前から争いがありません。

そこで、相談者BがAの遺産をできるだけ、Cに相続させるためには、遺産分割調停を申立てるなどして、できるだけ早く、遺産分割協議をまとめることが重要です。
また、万が一、合意の前に亡くなることを考えて、自己の財産を、遺留分額に相当すると考えられる財産をDに、その他はCに相続させる遺言書を残すことになります。