本判例は、遺産分割の効力は相続開始時に遡るとされているにも関わらず、相続開始後、分割前に不動産から生じた賃料債権について、各相続人は相続分に応じて分割された賃料(債権)を単独で取得するなどの結論を出した点で重要です。

簡略化した本判例の事案は以下のとおりです。

Aが死亡し、その相続人は、妻X、子Yら(4人)でした。Aは、複数の賃貸不動産を所有していました。その後、遺産分割の審判により、それぞれの相続する不動産が決定されました。

ところが、相続開始後分割前に各不動産から生じた賃料債権をどう分けるかについて、Xは、各不動産から生じた賃料債権は、相続開始時に遡って、遺産分割決定により各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張しました

これに対し、Yらは、各不動産から生じた賃料債権は、遺産分割決定確定の日までは、法定相続分に従って、各相続人に帰属する旨主張しました

そこで、この問題につきXとYらは、賃料が振り込まれた口座の残金につき、争いのない部分については分配し、争いのある部分はYが保管して、その帰属を訴訟で確定することとして、XがYの保管している金員は自分のものであるから支払えとの内容の訴訟を提起しました。

一審、二審は、Xの請求を認めましたが、最高裁は、
「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」
として、原審を破棄し、差し戻しました。

このように、最高裁は、本判決で、①相続開始から遺産分割までの賃料(債権)が遺産とは別の財産であること、②各相続人は、相続分に応じて、分割された賃料(債権)を単独で取得すること、及び③分割単独債権として取得されるのは確定的であり、後に遺産分割がなされてもその帰属は影響を受けないことを初めて明確に示しました。

この判決前は、相続開始後、遺産分割前の遺産たる賃貸不動産についての賃料(債権)については、遺産分割によってその不動産が特定の相続人に帰属した場合、遺産分割の効力は相続開始時に遡る(民法909条)ことから、その相続人に帰属するのではないかということが問題となっていました。

しかし、本判決は、まず、相続開始から遺産分割までの賃料(債権)が遺産とは別の財産であるとしました。
その理由としては、この賃料(債権)は、相続開始前には、存在しないためです。
遺産ではないということですので、例えば、遺産分割調停・審判で、この賃料(債権)について、調停又は審判を行うためには、当事者全員の合意が必要です。

そして、本判決は、②各相続人は、相続分に応じて、分割された賃料(債権)を単独で取得すること、及び③分割単独債権として取得されるのは確定的であり、後に遺産分割がなされてもその帰属は影響を受けないとして、この賃料債権が法定相続分に従って、相続人に帰属するとしました。

この点、普通の感覚と異なること(最終的にその不動産を相続した者が全部を取得するのではないこと)、又、相続開始後、遺産分割の成立まで長期間が経過した場合は、多額になることなど、注意が必要です。

相続開始後、遺産分割まで長期間が経過した相続については、弁護士にご相談されることをおすすめします。