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先日、父が亡くなりました。母は、5年前に亡くなっていることから父の相続人は、子供である私と弟Bです。
父は事業家で数億の資産を有していました。そこで、15年前に私が店を出す際に1000万円を贈与してくれました。
ところが、母が亡くなった後の5年間で、父の事業がうまく行かなくなり、結局、父が亡くなったとき遺産は、200万円ほどの預金しかありませんでした。
弟Bは、父が私に贈与した1000万円を加えて、遺留分を計算し、私に請求をすると行っています。
私は、弟にお金を支払わなくてはならないのでしょうか。 -
本設問は、平成30(2018)年の民法改正により、旧法が適用されるか、改正法が適用されるかにより結論が異なることになります。
遺留分についての改正の施行(適用がされる)日である令和元(2019)年7月1日より前に、相続が開始(被相続人が死亡)した場合は、遺産分割手続が施行日前に終了したものはもとより、施行日までに遺産分割が終了していないものも、改正前の法律が適用されることになります。
そして、令和元(2019)年7月1日以後に、相続が開始した場合は、改正法が適用されることになります。改正前の法律が適用された場合は、お父さんから相談者への15年前の1000万円の贈与は、遺留分算定の基礎財産に含まれることになります。
このため、遺留分算定の基礎財産は、1000万円+200万円=1200万円となり、このうちBの遺留分額は4分の1の300万円となりますが、遺産は、200万円しかないため、仮に遺産分割で全部を相続しても、100万円の差額が発生するため、Bは相談者に差額を請求することができることになります。これに対し、改正法は、遺留分算定の基礎財産に含まれる相続人に対する贈与を①特別受益に該当し、かつ、②相続開始前10年以内におこなわれたものと限定しました。
本件の贈与の場合、特別受益には該当しますが、15年前の贈与ですので、基礎財産には含まれないことになり、Bは相談者に遺留分を請求することはできず、遺産の200万円を100万円ずつ、遺産分割することになります。なお、このように相続人の贈与が基礎財産に含まれるのは、原則10年以内のものですが、例外として、贈与当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与を行った場合は、10年以上前の贈与も基礎財産に含まれます。
これは、本HPの「遺留分算定の基礎財産に含まれる贈与はなにか(第三者への贈与)」の記事で記載した第三者に対する贈与の場合の例外と同様です。しかし、本件の場合は、贈与当時は父親の事業はうまくいっており、数億円の財産があり、この5年間で、財産が減ってしまったということなので、贈与当事者は贈与当時に予想できないことですので、該当しません。
改正前の法律では、相続人に対する贈与は、特別受益としての性質をもつものであれば、時間的にどれだけ過去の贈与であっても基礎財産に参入されると解釈されてきました。
しかし、時間的に無制限ということでは、紛争の長期化及び受遺者等の地位の不安定を生じることになり、他方、相続人間での公平もできるだけ図る必要があることから、10年内の贈与ということに改正されました。まだまだ、改正前の法律が適用される紛争も多いと思いますので、この点注意をされることが必要です。
遺留分算定の基礎財産に含まれる贈与はなにか(相続人への贈与)
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