令和3(2021)年4月21日に、民法・不動産登記法等の改正を内容とする法律と相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が成立しました。
この法律改正については、このHPで相続・共有に係わる民法等の法律の改正(現時点で把握すべきこと)、相続・共有に係わる近時の改正の効果が生じる日などの記事を掲載してきました。
今年令和5(2023)年4月1日から上記の改正の内、共有制度、財産管理制度、相続制度及び相隣関係規定の改正が施行(しこう:法律の効果が生じること)されました。
ここでは、共有物の分割の内、裁判による共有物の分割(改正民法258条)について記載させていただきます。
その上で、次回に、改正の重要点である共有物に相続財産の持分がある場合の改正について(民法258条の2、同法904条の3、家事事件手続法199条2項、273条2項外)記載させていただきます。
裁判による共有物の分割についての改正
今回の改正により、従前、共有物について「共有者間に協議が整わないとき」(旧民法258条第1項)に分割ができると規定されていたのが、「共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき」(改正民法258条1項)と、実際に協議を行わなくても協議をできないとき、例えば、一部の者が協議に応じないために協議をすることができないときも、裁判による共有物の分割ができることを明記しました。
改正258条第1項
共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
また、共有物分割について、旧法285条2項は、共有物分割の方法として、現物分割と競売(換価分割)のみを規定していましたが、改正法は、285条2項において、現物分割(1号)に加え価格賠償(かかくばいしょう:金銭により共有者の1人が共有物の全部を取得する(全面的価格賠償)など、金銭により分割する方法)(2号)を定めると共に、これらの方法により共有物を分割することができない場合、又は、分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき(同法3項)は、裁判所が競売(換価分割:共有物をお金に換えて分割する方法)を命じることができることを定めました。
このように共有物の分割方法として、価格賠償が認められることを明示しましたが、改正でも全面的価格賠償の要件(条件)は定められず、全面的価格賠償が認められるかどうかは、いままでどおり、裁判所により、事案ごとに判断されることになりました。
これは、判断要素の一部のみを抽出して要件(条件)を規定すると、他の判断要素については不要であるとの誤解が生じる一方、すべての判断要素を記載することは困難であるためです。
また、競売が認められる「これらの方法により共有物を分割することができない場合、又は、分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき」とは、通常、価格賠償によって、共有物の価格が著しく減少することは考えられないことから、
① 現物分割が出来ないこと
② 現物分割の方法だと価格を著しく減少させるおそれがあり、かつ、全面的価格賠償ができないこと。
の2つの要件(条件)が認められる場合と考えられます。
改正258条第2・3項
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
さらに、4項において、共有物分割の裁判において、裁判所が金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる旨の規定を新たに設けました。
改正258条第4項
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
ここまでが、今回の改正による裁判による共有物分割の基本的部分です。次回は、今回の改正の重要点である共有物に相続財産の持分がある場合の裁判による共有物分割について説明します。