遺産分割の交渉・調停における相続財産の評価の争いが最も多いのが、不動産です。
そこで、遺産分割の交渉・調停の手続きで、どのように不動産の評価が決められていくかを知りたい人のために、この記事を作成しました。
まず、前提として、相続財産の評価の時点は、遺産分割時とされています。
これは、相続開始時とすると、分割時に価格の下落した財産を取得する相続人と価格の上昇した財産を取得する相続人間で不公平が生じるからです。
しかし、特別受益及び寄与分の場合は条文等から相続開始時を基準として「みなし相続財産」を算出することから、これらが問題となる遺産分割については、分割時のほかに相続開始時の評価も必要です。
ただし、この両時点における評価額は同じでもよく、価格の変動がないあるいは少ないと考えられる場合は、同一価格で同意されることも多いです。
遺産分割交渉・調停において、不動産の評価額について、資料となるものとしては、①路線価等の基準価格及び②その他の資料があります。
また、評価額を決定する手続きとしては、合意と鑑定があります。
以下では、これらについて、説明します。
①の不動産の基準価格としては、路線価(相続税評価額)、固定資産税評価額、公示価格(地価公示価格)、地価調査標準価格(都道府県地価調査標準価格)などがあります。
この中で、遺産分割の交渉・調停の中で、よく使用されるのは、路線価と固定資産税評価額です。
公示価格、地価調査標準価格は限られた土地についてしか出されていないのに対し、路線価と固定資産税評価額は、特に都市部においては、ほとんどの不動産で算出されていることなどによります。
ただし、公示価格は、毎年1月1日を基準日として3月下旬頃、公示される価格(国土交通省ウェブサイト「土地総合情報システム」)で、一般の取引の指標であるとともに、公共事業の用に供する土地の取得価格の算定など、路線価や固定資産税評価の基準となることから、公示価格が出された土地が近隣にある等、有益に使用できる場合もあります。
また、地価調査標準価格は、都道府県知事が国土利用計画法に基づき特定の基準値について毎年7月1日を基準値として公表(国土交通省ウェブサイト「土地総合情報ライブラリー」)している価格で、林地の基準値でもあるので、山林等の評価では、有益に使用できる場合もあります。
これらに対し、まず、路線価については、相続税、贈与税等の算出の基準価格として、毎年1月1日時点の価格を国税庁が公表(国税庁ウェブサイト 「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」)しています。
路線価は、公示価格の80パーセントを目安に設定されています。
そこで、路線価を0.8で割り、評価額とし、交渉・調停で使用する場合もあります。
ただし、路線価を相続税の申告で使用する場合は、その数字をそのまま使用するのではなく、一定の計算をした上で使用しますので、相続税の申告をしていない場合には、そのことに注意する必要があります。
また、逆に、相続税の申告書から不動産の評価の数字を摘出する場合は、小規模宅地の特例等により不動産の評価額が大幅に減少していたり、数筆の土地を合わせて評価している場合もありますので、それらの点の注意も必要です。
上記の公示価格、地価調査標準価格、路線価は、いずれも土地についての基準価格です。
このため、例えば、相続税の申告の際は、土地については路線価を使用しますが、建物の評価は、後記する固定資産評価額を使用するなど、建物の評価については、固定資産評価額が使用されることが多いです。
ただし、建物の固定資産税評価額は、建物が新しい場合は実際より低く評価され、建物が古い場合は実際より高く評価される傾向があるといわれていますので、この点も注意が必要です。
固定資産評価額は、固定資産税、都市計画税、不動産取得税の基準とされる基準価格で、3年に1度、評価替えが行われます。
公示価格の70パーセントを目安に、土地の個別的要因を考慮して、不動産ごとに定められています。
その他の資料としては、不動産仲介業者等による「提案書」等名称は様々ですが不動産価格についての書面があります。
業者にもよりますが、弁護士の依頼により作成してくれます。当事者がお願いして作成してもらう場合もあります。
交渉においても、まずは、双方これらの基準価格及び資料に基づき、それぞれ評価額を主張し、不動産の評価について合意をするよう交渉することになります。
評価についての交渉がまとまらない場合、遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停の場合、調停から弁護士が代理人につくことなどにより、評価について合意が成立する場合も多いです。
しかし、調停でも評価の合意が成立しない場合は、鑑定で、評価を決めることになります。
鑑定には、簡易鑑定と正式な鑑定があります。
簡易鑑定は、不動産鑑定士の資格を持つ調停委員が、双方当事者から提出された評価の資料をもとに、机上(現地に行かずに)で検討の上、口頭で、評価額を述べる方式です。
ただし、調停を担当する裁判官によっては、簡易鑑定は行わない方も多いです。
また、前提(賃借権等の存在)等に争いがある等現地に行かないと判断できない場合には使用できません。
正式な鑑定は、裁判所から外部の不動産鑑定士に依頼して、鑑定をしてもらう方法です。
鑑定費用については、相続分に応じての負担となることが多いです。
正式な鑑定の場合は、依頼された不動産鑑定士が独自の資料等も加味して、評価することから、それまでの調停での交渉の過程とは別に価格が出される(調停の過程で出された一番高い金額より高い金額の評価が出されたり、逆に一番低い価格よりも低い価格が出されたり)こともあります。
調停では、相続財産の評価が合意あるいは鑑定により確定すると、次は、各相続人の取得額、遺産の分割方法を話し合うことになります。