税法における生命保険金と遺産分割におけるそれとは取り扱いが異なり、遺産分割においては、「特定の相続人が受取人と定められている限り」、生命保険金は相続財産には含まれません。
生命保険金が特別受益となるかという法的な争点がありますが、特別受益として認められるためには、最低、遺産総額に対する生命保険金の額の比率が、50%以上であることが必要です。
このページでは相続における生命保険金の取り扱いに関して解説します。
税法との違い
税法における生命保険金(死亡保険金請求権)の取り扱いの違いと、遺産分割における生命保険金の取り扱いが異なることは、専門家以外の方が相続財産を把握する場合に非常に難問となります。
税法においては、生命保金は、全てが相続財産に含まれます。
これに対し、遺産分割においては、生命保険金が、生命保険の契約により発生し、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではないことから、「特定の相続人が受取人と定められている限り」原則としては、相続財産に含まれないことになります(最高裁昭和40年2月2日判決民集19巻1号1頁)。
遺産分割の場合にさらに問題となるのは、生命保険金が上記のように原則としては、相続財産でないとしても、特別利益(民法903条)として、相続財産に含まれる場合があるということです。
生命保険と特別受益
特別受益とは、共同相続人間の平等を図るため、相続人に対して遺贈及び一定の生前贈与といった財産分与とみなされるものが与えられている場合に、その価格を加えたものを相続財産とみなす制度のことです。
生命保険金は、遺贈等ではありませんが、契約者である被相続人が保険料を支払い、他方で、受取人は被相続人の死亡を契機として生命保険金を取得するという実体があることから、上記の特別受益の趣旨から、特別受益又はこれに準ずるものとして、相続財産に含められないかでした。
これに対し、最高裁平成16年10月29日判決(民集58巻7号1979頁、判タ1173号199頁)は、①生命保険金の総額が約600万円、②相続開始時の相続財産の総額が約6000万円の事案について、
「保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係わる財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払った者で有り、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別利益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当であると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別利益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同総則人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」
とした上で、判決が一番目に記載する「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率」が、保険金の額が前記のとおり、約600万円、遺産の総額に対する比率が、約1割の本件については、特別受益にあたらないと判断しています。
この最高裁の判決後、出された特別受益が認められた裁判例(【肯定例】)及び、認められなかった裁判例(【肯定例】)における①保険金の額及び②当該保険金の額の遺産の総額に対する比率は、下記のとおりです。
【肯定例】
① 保険金の額が約1億円、遺産総額が1億円(生命保険金の額の遺産の総額に対する割合約10割) 東京高裁平成17年10月27日判決(家月58巻5号94頁)
② 生命保険金の額が約5000万円、遺産総額が約8500万円(生命保険金の額の遺産の総額に対する割合約6割) 名古屋高判平成18年3月27日(家月58巻10号66頁)
【被定例】
③ 保険金の額が約400万円円、遺産総額が約7000万円(生命保険金の額の遺産の総額に対する割合約6分) 大阪家裁酒井支部平成18年3月22日審判(家月58巻10号84頁)
以上からすると、生命保険金が特別受益として認められるためには、最低、遺産総額に対する生命保険金の額の比率が、50%以上であることが必要と考えられます。