判例紹介

相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときは持戻しが必要である旨の判例(最高裁平成17年10月11日決定 最高裁判所民事判例集59巻8号2243頁)

広義の再転相続【再転相続3】

この判決は、いわゆる「広義(広い意味)の再転相続」における遺産分割と特別受益等に関する判例です。

本事案の概要

Aは、平成7年12月7日に死亡し、その相続人は、Aの妻B並びに子供C1、C2及びC3の4人がいました。しかし、Aの遺産分割が未了の平成10年4月10日にBが死亡し、Bの相続人としては、C1~3の3人が残りました。

Aの相続については、遺産分割の対象として未分割の不動産と現金が存在しました。一方で、Bの遺産はその固有財産である不動産のみであり、その不動産をC1に相続させる旨の遺言がありました。

A及びBの遺産分割については、それぞれ遺産分割調停が申し立てられました。調停は不成立となり、審判に移行しました。

審判では、Aの相続においてC1及びC3が特別受益を受けたとされ、その特別受益を考慮した遺産分割が行われました。

同審判に不服のC1及びC3は同審判について、即時抗告をしました。

原審の高等裁判所の判断

原審では、Bの固有財産である不動産はC1が取得済みであり、それ以外のBの固有財産は存在しないことから、Bの遺産分割審判の申立ては不適法とされました。また、Aの相続におけるBの相続分については、具体的な財産権ではなく、遺産分割によらずに当然にBの相続人であるC1~C3に承継されると判断しました。また、この承継部分に関しては、民法903条の特別受益の規定は適用されないとして、持ち戻しを否定しました。

原審の判断に不服であったC2は、抗告許可の申立てをし、これが認められ、最高裁での判決となりました。

最高裁の判決の内容

最高裁判所は、この原審の決定に対して、
「相続が開始して遺産分割未了の間に相続人が死亡した場合において、第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は、実体上の権利であって第2次相続人の遺産として遺産分割の対象となり、第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときは、その持戻しをして具体的相続分を算定しなければならない。」
と判決しました。

説明

別の記事でいままで説明した再転相続は、相続人が相続の承認も放棄もしないで熟慮期間内に死亡した場合です。この再転相続については、広義の再転相続との比較から狭義の再転相続と呼ばれることもあります。

今回説明する広義の再転相続は、法律学上の概念で、第1の相続については既に単純承認の効果が生じているが(この点で狭義の再転相続と異なります)、未分割の遺産がある状態で、共同相続人の1人が死亡し、第2の相続が開始している場合です。遺産分割がされないまま、相続人の1人が亡くなった場合ということですから、よくあるケースです。

本件は、Bの相続分が、遺産なのか、遺産でないのかが争点であり、最高裁は、Bの相続分に応じた共有持ち分権は、実体上の権利であって第2次相続人の遺産として遺産分割の対象になるとしました。

その理由としては、以下のようなものと考えられています。

民法は、被相続人が死亡して相続が開始すると、

① 相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになり(民法896条)、
② 相続人が複数であるときは、各共同相続人がその相続分に応じて被相続人の上記権利義務を承継し(民法899条)
③ 遺産は相続分に従い共同相続人の共有(いわゆる「遺産共有」)となり(民法899条)
④ このような共有状態にある遺産を共同相続人に分割するには、遺産分割手続きによることが必要(民法906条、907条)。
としています。

以上の規定から従前の最高裁の判決は、相続人は、相続開始と同時に、遺産分割前の遺産について、法定相続分に応じた共有持ち分権を取得すると解していました。また、その共有の性質は、物権法上の共有と同じものと解されていました。本判決は、従前の判例の流れから、相続人が取得する遺産についての共有持分権の実体法上の権利性を認めたと考えられます。

本判決は、このように第2次相続人の第1被相続人からの相続分の遺産性を認めたうえで、その論理的帰結として、第2次被相続人BからC1への特別受益の持戻しをすべきことを認めたものです。

本判決の考え方からすれば、たとえ、第2次被相続人に固有の遺産がない場合も、調停で遺産分割を行う場合は、第2次被相続人の遺産分割調停を申立てる必要があることになります。

しかし、第2次被相続人に固有の遺産がなく、特別受益等の問題がない場合にまで、調停の申立てを義務付けることは無駄です。また、
「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」(民法906条)とされており、具体的な分割手法の選択等に関しては、裁判所に広範な裁量権がみとめられています。

そこで、東京家庭裁判所の遺産分割調停においては、
1 a 第2次被相続人Bを除く第1次被相続人Aの相続人とBの相続人が同一で、
  b 第2次被相続人Bの固有の遺産がなく、
  c 第2次被相続人Bから特別受益を得たとの主張、または、Bに対する寄与分があるとの主張がない場合
には、被相続人Bの遺産分割調停を申立てる必要はなく、最終的な相続人の各法定相続分割合を計算し、その割合をもとに、第1次相続人の未分割遺産を一括して分割する。

2 第2次被相続人Bに固有の遺産がある場合、又は固有の遺産がない場合でも、Bから特別受益を得たなどの主張がある場合は、被相続人Bの遺産分割調停の申立てが必要である。
この場合には、遺産目録には、AからのBの相続分について「被相続人Aの遺産にかかるBの相続分2分の1」を記載することになる。

3 また、第2次被相続人に固有の遺産がない場合でも第2次被相続人Bを除く第1次被相続人の相続人と、第2次被相続人の相続人とが異なる場合には、第2次被相続人の遺産分割調停の申立てが必要である。

との実務で行われています(片岡剛ほか編「第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」26頁ほか)。

本判決は、結果的に、相続が未分割のまま繰り返される場合でも、一つ一つの相続ごとに、遺産分割を考えるべきという基礎的なことを、述べている点でも重要です。

以外にこの点をしっかりと理解していない弁護士もいます。相続が未分割のまま繰り返されている場合の遺産分割を行おうとする場合も、遺産分割に強い弁護士にご相談下さい。