相続人が、病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合、療養看護型の寄与分が認められる場合があります。
ただし、相続人が看護人を雇わなければならなかったところ、相続人が無償で療養看護したために、被相続人が看護の費用の支出を免れたことにより、相続財産が維持された場合に限られます。
実際の調停の場合でも、この類型の主張は多いです。
ただし、この類型を主張する場合は、相続人の療養看護の内容より、被相続人の状況、つまり、どういう症状で、どのような療養看護が必要だったかを明らかにすることに重点をおく必要があります。
よく主張されますが、認められるのはなかなか難しい類型です。
認められるための要件は以下のとおりです。
(1) 被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を越える特別な寄与があること
療養看護型で、特別な寄与があるとされるためには、以下のアからオが必要です。
ア 【療養看護の必要性】
被相続人が「療養看護を必要とする症状であったこと」及び「近親者による療養看護を必要としていたこと」が必要です。
このため、完全看護の病院に入院していた場合は、寄与分は基本的には認められません。
ただし、完全看護体制の病院に入院している場合でも、医師が近親者の付き添い看護が必要と認めた場合は、例外的に認められる可能性もあります。
イ 【特別の貢献】
平成12年4月から導入された介護保険制度では、要支援1及び2、要介護度1~5に分かれており、要支援1が一番軽く、要介護度5が一番重いとされています。
特別な寄与にあたるかどうかの判断基準としては、被相続人が要介護度2以上の状態にあることが、一つの目安とされています。
ただし、要介護は身体機能に着目して認定されることから、物忘れや認知機能の低下が起こり、日常生活に支障をきたす認知症で徘徊行為の見守りのような「介護に準ずる負担」が生じている場合は、要介護2より軽くても、例外的に特別の貢献が認められる場合があります。
他方、相続人が配偶者の場合は、療養看護が夫婦の協力扶助義務(民法752条)に含まれるため、特別の貢献とされるためには、要介護2を超えた状態(要介護3以上)が必要とされることになります。
ウ 【無償性】
無報酬又は、これに近い状態でなされていることが必要です。
ただし、通常の介護報酬に比べ著しく少額であるような場合には、無償性の要件を満たすと解されています。
寄与主張者が被相続人の住居に同居しているなど、居住の利益を得ている場合が問題となります。
療養看護に際しての同居等の必要性(被相続人からの要請か、寄与主張者の居住の必要性からの要請か)及び同居した際の生活費の分担等によりますが、寄与主張者が居住の利益を受けていた場合は、算定された寄与分から利益相当額が差し引かれる取り扱いが多いです。
エ 【継続性】
1年以上。
オ 【専従性】
療養看護の内容が片手間でないこと。ただし、「専業」「専念」であることまでは求められません。
(2) 寄与行為の結果として被相続人の財産が具体的に維持又は増加していること
相続人の療養看護により、被相続人が精神的な安堵を得たということでは足りず、療養看護により、職業看護人に支払うべき報酬等の看護費用の出費を免れたという結果が認められなければなりません。
【上記要件の立証】
要介護認定通知書・認定資料・ケアプラン・施設・介護等利用契約書、医療記録等により、被相続人の状態、どういう介護が必要とされたか等を立証します。
継続性についても、これらの資料があれば、立証されることが多いと思います。
療養看護の具体的内容については、上記の資料を前提の上、写真、手紙、日記等で立証します。
また、上記全体(専従性等も含め)を立証するため、寄与主張者等による報告書・陳述書を作成し提出します。
【評価方法】
療養看護行為の報酬相当額(日当)に看護日数を乗じ、それに裁量処分を乗じて計算するのが通常の方法です。
①報酬相当額としては、介護保険における「介護報酬基準」が使われることが多いです。
②看護日数は、要介護2以上(あるいは同介護以上と同視できる認知症の症状)の期間から、入院・施設入所等の期間を除いた期間です。
③裁量処分は、裁判所の判断により上記①×②に乗じることになりますが(①×②×③)、(療養看護型における裁量処分は)「通常は、0.5から0.8程度の間で適宜修正されており、0.7あたりが平均的な数値と思われる。」(片岡武ほか著「第3版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」360頁)とされています。
このように寄与分の主張は難しく、寄与分の主張を行う場合は、弁護士にご相談下さい。