物権共有している不動産を協議で分割する場合、分割方法としては、①現物分割(共有不動産を現物で方法)、②代償分割(共有者の一部に持分を越える不動産を取得させ、他の共有者に代償金を支払う方法)、③換価分割(共有不動産を任意売却等で換金し、その売却代金を分配する方法)等があります。
このページでは、共有不動産の分割について解説いたします。
相続と共有不動産
不動産である土地建物が複数の人間により共有されていることは、よくありますが、多くの場合は、相続によるものです。
そして、そのほとんどは、積極的な理由で共有しているのではなく、仕方なく共有している状態です。
相続による遺産分割が成立せず共有の状態が続いている場合、遺産分割でやむをえず共有の状態になっている場合、この2つの場合は、法律的には違い、法的手続も異なるのですが、当事者にとっては、違いはありません。
むろん、共有持分を売却することも、法律的には可能ですが、なかなか良い買い手が見つからないこともあり、容易ではありません。
では、どのような手続で、どのように共有不動産の分割は行われるのでしょうか。まずは、A、B、Cの3人(兄弟等)が、土地建物などの不動産を共有している場合を例に、説明します。
協議による分割
相続による共有の場合であっても、①遺産分割前の共有の場合の分割の手続は、家庭裁判所の調停・審判の手続で行われるのに対し、②当事者間での遺産分割協議によって遺産である土地建物が共有取得された場合及び、遺留分減殺請求権の行使によって共有取得した場合の分割の手続は、地方裁判所等における共有物分割請求訴訟で行われるなど、この2つの場合は、法的手続が違っています。
このページは、②の共有物請求訴訟を中心に説明しますが、ただ、①、②どちらの場合であっても、法的手続の前段階である協議の結果、合意が成立すれば、分割ができることはもちろんです。
共有物分割請求訴訟の場合、民法258条2項で、「前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」と定められているとおり、原則は現物分割、例外は競売の方法による分割とされており、解釈により、代償分割などの方法も認められているとはいえ、分割方法の制限があります。
しかし、協議の場合は、このような制限はありません。
例えば、敷地上に建物が建っており、土地建物ともに共有物分割請求がされている場合は、判決で現物分割をすることは困難な場合もありますが、そのような場合であっても、協議であれば、例えば建物を取り壊して土地を現物分割することも可能であるように、協議の場合は、柔軟な対応が可能です。
さらに、土地の現物分割の場合に、宅地分譲を見込んで共有の進入路を設けるなど、わざと、共有部分を残すようなこともできます。
裁判になってからでも、和解という形での協議は可能ですが、裁判外の協議でまとまれば、迅速に解決することができます。
以下においては、協議における場合を前提に各分割方法の概要や協議でまとめる場合の注意点等を簡単に記載します。
なお、共有物の分割は、共有持分の交換又は売買のため(最高裁昭和42年8月25日 民集21巻7号1729頁 判例時報503号29頁)、代償分割や競売の時だけではなく現物分割であっても課税されることがありますので、この点でも注意が必要です。
現物分割
現物分割とは、共有物をそのまま分割する方法をいいます。
分割にあたっては、誰が、どのように土地建物を利用しているかの確認が必要です。
もともと、現物分割で分割できるのであれば、遺産分割の際、合意が成立している蓋然性が大きく、再度の協議が問題となるケースは、ほとんど考えられないでしょう。
土地を現物分割するに際しては、土地の地積測量図面を添付して、分筆登記をすることになります。
そして、分筆登記をするためには、共有地と隣接地の境界が確定していなければなりません。
そこで、そもそも、境界が確定しているかが問題となり、確定していない場合は、隣地の方との交渉を行い、境界確認書等を作成することも必要です。
さらに、例えば、土地の上に、1つの建物があり、ABCが、土地だけでなく建物も共有しているような場合、現物分割により、建物も、ABCに分割しようとすると、建物の区分登記をしなければなりませんが、建物を区分して登記する場合は、建物図面及び各階平面図等を添付しなければなりませんので、これらの準備も必要です。
加えて、共有地の一部に建物が存在する下記のような場合に、現物分割を行う場合は、その建物へのガス管、上下水道等水回り、電線の位置等を確認する必要もあります。
建物の所有者でない共有者が空き地部分を取得する場合、その空き地部分に建物への上下水道、ガス管が埋没されていると、他の場所への付け替え工事も必要となり、その工事費用の負担をどうするのかも問題となることからです。
また、分割した場合に、接道義務を満たすかどうかも、問題になることが多いです。
建物を建築するためには、原則として、幅員(ふくいん)4メートル道路に2メートル以上接することが必要ですが(建築基準法43条、42条)、これについては例外も多く、東京都建築安全条例等条例の確認が必要です。
代償分割
代償分割とは、共有者の一部に持分を越える不動産を取得させた上、他の共有者に対する債務を負担させる方法です。
例えば、(Ⅰ)Aが、共有の土地建物全てを取得しBCにその代価の金員を支払ったり(全面的価格賠償)、(Ⅱ)Aの自宅の敷地が、BCに比べて大きな場合にその差額を調整する金員をBCに支払ったりする場合が考えられます。
特に(Ⅰ)の場合のように、1人が全ての共有不動産を取得するような場合、分筆、区分登記が必ずしも必要でなくなり、簡便になるなどのメリットがあります。
ただ、代償分割の場合は、現物分割の場合と異なり、①共有の土地建物の価値、すなわち、AからB及びCへの支払い額、並びに、②Aにそれだけの資力があるかが問題となります。
①の土地建物の評価については、当事者の合意が成立するかが問題となります。
また、②のAの資力については、支払いを受けるB及びCがどこまで、リスクを取るかが問題となります。
Aからも、融資証明書、預金の残高証明書、預金通帳の写しを見せるなどしてその資力を証明する必要がある場合もあるでしょう。
換価分割
換価分割とは、土地建物などの共有不動産を任意売却等で換金し、そのお金を共有持分の割合等で分配する方法です。
例えば、共有建物・不動産の全てを売却、または、一部を売却(残りの部分は、現物分割、共有等)するなどして、売却代金をABCで、分配することも考えられます。
ただ、この場合は、「当事者間で、最低売却価格、売却期限、売却担当者、売却代金から控除する費用の項目、相続登記手続及び所有権移転登記の手続の費用や司法書士費用の精算方法、売却が不成功に終わった場合の措置、売却担当者の経過報告や報酬、協力義務の取り決め」(片岡武/管野眞一著「新版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」368頁)等をする必要があります。
また、全部を1人に対して売却する場合であれば、分筆は必要ありませんが、隣地との境界の確定は必要で、確定されていなければ、隣地の所有者と協議し、確定する必要があります。
共有不動産の一部の売却の場合は、土地については、分筆のために地積測量図等、建物については、区分登記のために建物図面及び各階平面図等を添付しなければなりませんので、これらの準備も必要です。
このように、協議による共有不動産(土地・建物)の分割は、準備事項、合意しなければならない事項が多く、素人が容易にできることではありません。分割を考える場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
共有不動産分割で調停の利用
前記の記載は、当事者同士が(弁護士を代理人とするかどうかは別として)、協議を行うイメージで、書いていますが、実務的には、調停を利用しての話し合いを行うこともよくあります。
まず、①複数の人間が共同で特定の土地・建物を購入し共有した場合の共有不動産の分割については、簡易裁判所に一般民事の調停を申し立てて行うことになります。
また、②遺産分割未了のため、共有となっている場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。
さらに、③遺産分割により共有となった土地・建物の分割、及び遺留分減殺請求権の行使によって共有となった土地・建物の分割は、一般民事調停の申し立ても可能ですが、「遺産分割後の紛争調整事件」として、家庭裁判所に申し立てることも可能です(一般家事調停事件)。
裁判所への申立費用は、家事調停事件の方がかなり低額ですので、家事調停事件の申立の可能な場合には、家事調停を選択することが多いでしょう。
どのような手段があるかも含め、弁護士にご相談いただければと思います。