令和3(2021)年4月21日に、民法・不動産登記法等の改正を内容とする法律と相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が成立し、令和5(2023)年4月1日、共有制度、財産管理制度、相続制度及び相隣関係規定の改正が施行(しこう:法律の効果が生じること)されました。

この法律改正の内、裁判による共有物分割についての改正について、本HPでは、裁判による共有物分割についての法律改正(上)として、同改正における裁判による共有物分割の基本的部分の改正について説明させていただきました。

1 遺産共有部分について、共有物分割手続が認められる場合

ここでは、その続きとして、今回の改正における重要点である共有物に相続財産の持分がある場合(民法904条の3、家事事件手続法199条2項、家事事件手続法273条2項)における裁判による共有物分割についての改正を説明致します。

改正前、実務では、遺産共有関係は、家庭裁判所での遺産分割の手続(調停・審判)で解消しなければならず、地方裁判所等での共有物分割訴訟では、解消することができないとされていました。

前に解説した最高裁平成25年11月29日判決(民集67巻8号1736頁)については、(遺産共有と他の共有が併存する場合の共有物分割の方法)で、説明させていただきましたが、
「遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきである。」
として、共有物分割訴訟による分割を一応認めましたが、遺産共有の部分の分割については、共有物分割訴訟の後、さらに、遺産分割の手続で行うこととしています。

今回の改正も、原則として、遺産共有部分についての共有物分割手続は認めていません。

創設された改正民法第258条の2(以下「民法」は省略。)第1項は、「共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合」「当該共有物又はその持分について前条の規定(注:共有物分割訴訟)による分割をすることができない。」として、共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合については遺産分割手続で行わなければならず、共有物分割の裁判手続で行うことはできないと定めました(第258条の2 第1項)。

しかし、例外として、①共有物の持分が相続財産に属する場合で、かつ、②相続開始の時から10年を経過したときは、共有物分割手続によることができると定めました(第258条の2 第2項本文)。

ただし、この①、②の条件を満たした場合でも、共有物分割が提起された後でも、相続人が遺産分割の請求を行い異議の申立を行った場合は、共有物分割手続により、遺産共有部分の分割をすることはできないと定めました(第258条の2 第2項但書)

その反面、遺産開始後10年が経過した場合、申立人が遺産分割調停を取り下げるためには、相手方の同意が必要になります(家事事件手続法199条2項、家事事件手続法273条2項)。これは、申立人以外の相手方の相続人の遺産分割調停で解決する利益を保護するためのものです。

第258条の2において、第1項では、「共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合」と「共有物の全部が相続財産に属する場合」と「持分が相続財産に属する場合」について、共有物分割訴訟ができないことを定めています。

これに対し、第2項は、「持分が相続財産に属する場合」のみについて、規定しています。つまり、共有物全体が遺産である場合は、文言上はこの規定は適用されず遺産分割調停により分割する必要があり、この規定が適用され、裁判による共有物分割手続で処理できるのは、あくまで、共有物において遺産共有と通常の共有が併存する場合のみということになります。

この改正法が施行される前に既に相続が開始した場合(例えば、2022年に被相続人が死亡した場合)は、a 相続開始から10年を経過する時又は、b 施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時から、寄与分等の期間制限がされることになります(改正法附則3条)。(相続・共有に係わる近時の改正の効果が生じる日

前記のとおり、今回の改正は、令和5(2023)年4月1日に施行されましたから、「5年を経過する時」というのは、令和10(2028年)年4月1日ということになります。

したがって、今回の改正の施行前に相続が開始されている場合でも、令和10(2028年)年4月1日からは、第258条の2 第2項が適用され、遺産共有と通常の共有が併存していても、裁判による共有物分割手続で分割できる場合が生じることになります。

第258条の2
【原則】  共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定(注:共有物分割訴訟)による分割をすることができない。
【例外】2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定(注:共有物分割訴訟)による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第1項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2ヶ月以内に当該裁判所にしなければならない。

 遺産共有部分についても裁判による共有物分割手続で分割する場合の処理

では、異議が出されず、遺産共有部分についても裁判による共有物分割手続で分割する場合、裁判においては、どのように処理されるでしょうか。

遺産分割調停においては、相続人、遺産の範囲、遺産の評価等を前提に、法定相続分に、特別受益、寄与分、特別の寄与を考慮して具体的相続分を判断し、遺産を分割します。

しかし、裁判における共有物分割においては、通常の共有部分も同時に審理をしなければならないことから、特別受益、寄与分、特別の寄与等を考慮することは手続き的に困難です。

今回の改正では、後記の第904条の3により、相続開始の時から、10年を経過した後による遺産の分割については、遺産分割調停では、原則、特別受益、寄与分、特別の寄与は主張できないことになりました(904条の3 柱書 なお、例外については、後記904条の3第1項1号及び2号に記載されているとおりです)。

これにより、裁判により、遺産共有部分を分割する場合も、特別受益等具体的相続分については、考慮することなく、法定相続分により、分割すればよいことになりました。

第904条の3
前三条(注:特別受益、寄与分、特別の寄与)の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。
1 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
2 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

全国の約20%が所有者不明の土地であることから、これを減らしていくことを目的として行われたのが今回の共有物分割、遺産分割の改正です。前記のとおり、令和10(2028)年4月1日(施行の5年後)を過ぎてから、まず、施行前に相続が開始された事案に適用されて行くことにます。

まだ、多少の余裕がありますが、この改正を踏まえ、共有物分割、遺産分割に対応していくことが求められてきます。