判例紹介:共有物分割による形式的競売の場合も無剰余取消の規定は適用することを認めた決定(最高裁平成24年2月7日決定)。
内容
本決定は、最高裁が、共有物分割による形式的競売の場合も、無剰余取消(競売をしても配当を得ることのできない債権者が申立てたとしても、裁判所がこの申立てを却下して取消す制度)の規定の適用があることを認め、条文上、「担保権の実行としての競売の例による。」(民事執行法195条)としか規定がない共有物分割による形式的競売の規律につき始めて明示的な判断を示した点に意義があります。
本決定の事案は、以下の通りです。
共有物分割訴訟で勝訴した原告が、平成22年7月20日、同不動産について、共有物分割による形式的競売の申立を行い、裁判所は、同年8月25日、競売開始決定をしました。
本件不動産には、A信用金庫が極度額9000万円の根抵当権、B銀行が極度額9000万円及び極度額8500万円の根抵当権が設定されていました。
ところが、同年11月8日、売却不動産の売却基準価格が4629万円と定められたことから、裁判所は、「本件不動産の買受可能価格が、手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の合計額(見込額)に満たない」ことを通知しましたが、原告は、保証の供託等をしなかったことから、同月22日、無剰余取消により、裁判所は、同競売を取り消す旨の決定を行いました。
これに対し、原告が執行抗告、さらに許可抗告を行った結果、出されたのが本決定です。
説明
わかりづらいと思いますが、共有物分割訴訟で、共有不動産について競売をし、共有持分に応じ、売得金(から競売費用を控除した)金額を分割する判決を求め、勝訴したとしても、それだけでは、競売は始まりません。
さらに、裁判所に当該共有不動産を競売する申立を行わなければなりません。
ここで、申し立てる競売は、抵当権等の担保権の実行としての競売や、判決等に基づく強制競売とは異なり、共有物の分割を目的とする競売です。
抵当権等の担保権の実行としての競売や、判決等に基づく強制競売の場合、金銭の回収を目的とするため、競売を申し立てても、配当を得ることのできない債権者が申立てたとしても、裁判所がこの申立てを却下して取消すことになります(無剰余取消)。
ただ、共有物分割のための不動産競売について、この無剰余取消を定めた民事執行法63条が適用されるかについては、明文の規定がないため、問題となります。さらに、その前提として、そもそも、共有物分割のための不動産競売において、目的不動産上に存する抵当権等の負担は売却により消滅するのか(民事執行法59条が適用されるかどうか)が、問題となります。
共有物分割のための競売は、当然のことながら共有物の分割を目的としますから、それによる金銭の回収は直接には目的としません。
このことを理由として、昭和54年の民事執行法施行当初は、形式的競売全般につき、目的不動産に設定された抵当権等は買受人が引き受けるとする引受説が通説とされ、実務も引受説に基づき、無剰余取消を認めなかったり、抵当権の消滅を認めなかった例もあるようです。
しかしながら、この引受説ですと、売却後も抵当権等の権利関係が残るが、買受前にこのような権利関係を明らかにする制度がないため、買受を希望する者としては、買受を躊躇せざるをえなくなります。
そこで、現在の実務では、形式的競売の場合も抵当権等の権利関係は消滅する(消除説)で運用されています。
本決定は、最高裁が、消除説を前提に、さらに、無剰余取消の規定を適用することも明示したもので、共有物分割のための不動産競売の手続を明示したものとして重要です。
競売の申立は一般人には、困難なので、共有物分割を検討する場合は、共有物分割に強い弁護士にご相談ください。