私の両親は、10年前に相次いで亡くなりました。
私には、弟2人がいますが、私が家業の薬屋を継ぐことになりました。
両親の財産は、薬屋の土地・建物(以下「本件不動産」といいます。)と預貯金でしたが、預貯金全てを弟達に渡し、本件不動産については、私が、2分の1、弟達が4分の1ずつの共有ということで、遺産分割をしました。
ところが、最近、弟達は、本件不動産を売却し、お金を分けてもらいたいと主張してきています。
私としては、薬屋も繁盛していますし、この機会に、弟達から、本件不動産のそれぞれの持分を買い取りたいと思い、提案したのですが、弟達に支払うお金の価格で争いになり、話し合いがまとまりません
今後、弟達が共有物分割訴訟を提起してきた場合、訴訟の中で、和解がまとまり、持分の買い取りができればよいですが、判決になった場合は、競売で、売却されてしまうのでしょうか
判決でも、全面的価格賠償(共有物について、特定の共有者(この場合であれば相談者)が全部を取得して、他の共有者に対してその代償金を支払う分割方法)を取得することは可能です。

しかし、そのためには、特段の事情、つまり、

① 共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であること(これについては、共有物の性質・形状、共有関係の発生原因等を総合的に判断される)

② 共有者間の実質的公平性を害さないこと、すなわち、ア 共有物の価格が適正に評価されていること、及び、イ 共有物を取得する者に賠償金の支払い能力があること

つまり、①及び②を主張・立証することが必要です。

民法258条2項は、
「前項の場合(注:協議が整わず、訴訟になった場合)において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」
と定めていますが、これが、共有物の分割方法を定めた唯一の規定です。

このような規定の仕方から、当初は、判決では、現物分割と競売しかできないと考えられていました。

しかし、裁判所は、現物分割を柔軟に運用していきました。
言葉の意味からすれば、現物分割は、特定の一つの共有物を分割することです。
しかし、判例は、数個の共有建物が一個の土地上にあり「外形上一団」の建物と見られるような場合には、右建物を一括して分割の対象とし、共有物がそれぞれ各個の建物の単独所有権を取得する方法によることも許される(最高裁昭和45年11月6日判決 民集24巻12号1803頁)、分割を請求する者の持分の限度でのみ現物分割をして残りをその他の共有者の共有の共有物として残し、現物分割による過不足分を償金支払で調整する一部分割と一部価格賠償を行う方法(最高裁昭和62年4月22日大法廷判決 民集41巻3号408頁)、分割請求の相手方の持分の限度で現物を分割し、その余は分割請求者の共有として残す方法(最高裁平成4年1月24日判決 判時1424号54頁)などを認めていきました。

そして、前記のように、特段の事情、すなわち、①共有物を共有者のうちの特定の者(この場合であれば相談者)に取得させるのが相当であり、かつ、② 共有者間の実質的公平性を害さない場合に、全面的価格賠償(共有物について、特定の共有者が全部を取得して、他の共有者に対してその代償金を支払う分割方法)を認める最高裁の判決(最高裁平成8年10月31日判決 民集50巻9号2563号 なお、この日に同じ内容の最高裁判決が他に2件出されています)が出されました。

本件の場合は、共有と地上で相談者の薬局が営業されているという共有物の性質・形状及び、遺産相続により共有となったという共有関係の発生原因からすると、①共有物を共有者のうちの特定の者(この場合であれば相談者)に取得させるのが相当については、認められる可能性が大きいと思います。
しかし、話し合いでも争いになっている②共有者間の実質的公平性を害さない、つまり、弟さん達に支払う、代償金の価格については、裁判の場合、価格について合意ができないと、裁判所が頼んだ鑑定人による鑑定で価格が判断されることになります

今後の進行、鑑定等の費用も考えた上で、協議の段階でも、どのように交渉したらよいかを、共有に強い弁護士に相談いただければと思います。