判例紹介
賃料増額請求権の行使は管理行為に該当するとした裁判例(東京高等裁判所平成28年10月19日判決 判時2340号)
内容
本件裁判例の内容は、建物について持分2分の1を有するAが賃借人のBに対し、賃料増額請求権を行使し、適正賃料の確認と従前賃料との差額等の支払いを求めた事案です。
このAの請求に対し、第一審の東京地方裁判所平成28年5月28日判決(以下「本件原審判決」といいます。)は、
「民法252条、共有物の管理に関する事項は、変更を加える場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとし、例外的に、保存行為は、各共有者がすることができるものとしている。
これは、共有物の利用及び改良等の管理に関する行為については、持分の過半数を有する共有者らの意思により決することとしつつ、単に現状を維持するための行為であって、他の共有者に不利益を生じさせることが想定されない行為については、過半数の持分を有しない共有者であっても各自が行い得るとしているものである。」
とした上で、
「賃料増額請求権は、その行使によって賃貸借契約の重要な要素である賃料が一方的に変更されるものであることに照らすと、単に現状を維持するための保存行為とは言えず、共有物の利用等の管理行為に当たるというべきである。」
として、持分二分の一を保有するAは単独では賃料増額請求権を行使できないとしてAの請求を棄却しました。
これに対し、Aは、控訴しましたが、控訴審である東京高等裁判所は、原審である東京地方裁判所と同様の理由で、Aの請求を棄却しました。
説明
本件裁判例は、共有不動産を賃貸している場合の賃料増額請求権の行使が、民法252条1項本文の管理行為であることを示した裁判例です。
民法251条及び252条は、共有物に対する①変更(全員一致)、②管理(過半数での行使が必要)、③保存(単独行使可能)の各行為について定めています。
そこで、賃料増額請求権は、②の管理行為なのか、③の保存行為なのかが問題となりました。
保存行為であれば、単独の共有者で行使できますが、管理行為であれば、過半数の持ち分を有する共有者(複数で共同して行使もできます)が行使しなければ行使できません。
これに対しては、本件原審判決は、
「賃料増額請求権の行使によって、賃料が適正賃料となることからすると、適正賃料から乖離している賃料を適正賃料に是正し、他の共有者らにも適正な賃料を収受させることができるようにすることは、一見すると、他の共有者に不利益はなく、保存行為に該当し得るようにも見える。」
とした上で(このような反論がAから出ていたのではないかと思います。)
「賃料額は、賃貸人と賃借人の間の合意により決まるものである上、賃借人がいつまで賃借を希望するか等にも大きな影響を与えるものであり、それを変更する行為は、不動産をどのように利用して収益を上げるかに関わる問題であるから」「常に他の共有者に不利益を生じさせないということはできない。」こと
「賃料の減額請求は、他の共有者に不利益を商事させることが明らかであって」
「賃料増額請求権の行使のみを保存行為と解し、同一の条文に規定されている賃料減額請求権の行使は管理行為であると解するのは相当でない。」
として、賃料増額請求権の行使は、管理行為としました。
民法第252条の「管理」は、「変更」と「保存行為」の間という極めて広い範囲と解されている一方、その具体的内容が必ずしも明らかでないところ、本件裁判例は、賃料増額請求権の行使は、管理行為に当たり、持ち分2分の1を保有する共有者が単独ではできないと明示した点に意義があります。