祖父Aが今年3月に亡くなり、2か月後の5月に突然、父Bが亡くなりました。祖父Aの相続人は、父Bのみです。父Bは、生前に祖父Aの相続を承認するか、放棄するかについて、決定していませんでした。
父Bの相続人は、私C一人です。私は祖父Aの遺産をもらうつもりはありませんが、父Bの遺産は相続するつもりです。このことをはっきりさせるには、いつまでに、どのようなことをしなければならないでしょうか。

【説明】

ご質問のケースでは、祖父Aの死により相続が開始していますが、相続人である父Bが相続の承認も放棄もしないで被相続人の死を知ってから3カ月以内という熟慮期間中に死亡しています。

1 再転相続とは
このように、相続人が相続の承認も放棄もしないで熟慮期間内に死亡した場合を「再転相続(さいてんそうぞく)」と言います。「再転」とは、「一度変わった事の成り行きが、また変わること。」をいいます。この場合は、最初の相続の熟慮期間内に2度目の相続が開始することから再転相続と呼ばれます。

再転相続の場合、最終的に相続する者(本件の場合は、C)が、AからBへの相続につき、放棄、限定承認又は承認の選択をする地位も含めて相続します。

そのため、Cは、AからBへの相続(以下、「第1の相続(A→B))」といいます。)と、BからCへの相続(以下、「第2の相続(B→C)」といいます。)という連続する2つの相続につき、別々に放棄・承認(又は限定承認)を選択する機会が存在し、かつ、そのために別々に熟慮期間が存在することになります

このため、最初のCの選択としては、第2の相続(B→C)を先に選択した場合は、
①第2の相続(B→C)を放棄する。
②第2の相続(B→C)を承認(又は限定承認)する。

第1の相続(A→B)を先に選択した場合は、
③第1の相続(A→B)を放棄する。
④第1の相続(A→B)を承認(又は限定承認)する。
の①~④までの4つの場合があります。

2 Cが、最初に第2の相続(B→C)の放棄を選択した場合(前記①の場合)について
この場合、通説、判例は、Cは、第1の相続(C→B)についての承認又は、放棄の選択をすることはできなくなるとしています。その理由としては、Cが第2の相続(B→C)を放棄した結果、Bの地位の承継を放棄することになり、その結果、第1の相続についても選択する地位を失っているからとされています。

3 Cが、最初に第2の相続(B→C)(前記②の場合)の承認を選択した場合について
この場合は、Cとしては、第1の相続(A→B)について、放棄又は承認するかについて選択することができます。

4 Cが、最初に第1の相続(A→B)の放棄を選択した場合(前記③の場合)について
この場合、Cが第2の相続(B→C)について放棄の選択かできるかが問題となります。

なぜなら、第2の相続(B→C)についても、放棄すれば、CはBの死亡時に遡ってBの相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。そうすると、CはBから第1の相続(A→B)の相続人としての地位を承継していないことになり、Cが第1の相続(A→B)について、放棄する権限がないとも考えられるからです。

しかしながら、最高裁昭和63年6月21日判決(家庭裁判所月報41巻9号101頁)は、第2の相続(B→C)について放棄していなければ、第1の相続(A→B)について放棄することができ、その後第2の相続(B→C)についてCが相続放棄をしても、すでに、再転相続人として第1の相続(A→B)につき行った相続放棄の効力が遡って無効になることはないとしました。

したがって、この場合は、Cとしては、第2の相続(B→C)について、放棄又は承認するかについて選択することができます。

5 Cが、最初に第1の相続(A→B)の承認を選択した場合(前記③の場合)について
この場合は、Cとしては、第2の相続(B→C)について、放棄又は承認するかについて選択することができます。

【回答】

本件の場合は、前記で言えば、先に第1の相続(A→B)の放棄を行う③の場合で行うことになります。

そこで、Cは、熟慮期間内である「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法916条)から3カ月以内に、祖父Aの相続の放棄の申述を、祖父Aが最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に行えばよいことになります。

※ 参考「相続放棄の手続(申述)

父Bからの第2の相続(B→C)については、単純承認または、法定単純承認であればよいので、裁判所の手続きは不要で、通常の相続の手続きを行えばよいです。

このように再転相続は複雑ですので、特に放棄を行う場合は、相続に強い弁護士に相談下さい。