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1 Aが死亡し、唯一の相続人であるBがAを相続した。ところが、Aが死亡してから2か月後にBが死亡し、唯一の相続人であるCがBを相続した。Bは、生前にAの相続を承認するか、放棄するかについて、決定していなかった。Cは、第1の相続(A→B)を承認するか、放棄するかについて、いつまでに決定しなければならないか。
2 前記の設問で、Cが、①Aの死は知っていたが、②Aの死後6カ月が経過するまでBがAの相続人であることを知らなかった場合、Cは、第1の相続(A→B)を承認するか、放棄するかについて、いつまでに決定しなければならないか。
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【質問1の回答】
相続のための熟慮期間(相続について、承認、放棄等を選択できる期間)について、民法915条1項は、熟慮期間について、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月」と定めています。
さらに、再転相続の熟慮期間について、民法916条は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算」し3カ月と定めています。このように定めないと、本問だとCは第1の相続(A→B)について、Bが亡くなった後の1カ月しか、熟慮期間がないことになってしまうからです。
本問の場合は、Cの第2の相続(B→C)についての熟慮期間は、民法915条1項により、相続人であるCが、自己のためにこの第2の相続(B→C)の開始があったことを知った時、つまり、Bが死亡したときからということになります。
さらに、Cの第1の相続(A→B)についての熟慮期間は、再転相続についての民法916条に従い、Cが自己のためにAの相続の開始があったことを知った時、つまり、Bが亡くなった時からということになります。結果として、Cの第1の相続(A→B)についての熟慮期間と第2の相続(B→C)の熟慮期間は、同一の期間となります。
【質問2の回答】
本問の場合も、Cの第2の相続(B→C)についての熟慮期間は、民法915条1項により、相続人であるCが、自己のためにこの第2の相続の開始があったことを知った時、つまり、Bが死亡したときからということになります。
問題は、Cの第1の相続(A→B)についての熟慮期間です。CはAが亡くなった①の時点で、Aが亡くなったことを知っています。この時から熟慮期間が起算されるとすると、既に熟慮期間は経過しています。
このような事案について、最高裁令和元年8月9日判決(民集73巻3号293頁)は、「民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,
「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。」
と判断しました。質問2でいえば、①の時点ではなく、②のBがAの相続人であると知った時点がまさに、「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時」となります。
したがって、Aの死亡後6カ月後から、Cの第1の相続(A→B)についての熟慮期間が開始されることになります。
【説明】
前記の最高裁令和元年8月9日判決(民集73巻3号293頁)以前の通説は、民法916条については、
二つの相続について、熟慮期間を合併させるとともに、その起算点を再転相続人(本件の場合はC)が自己のために相続の開始があったことを知った時として、第一の相続についてのみ熟慮期間を延長した規定
と考えてきました。
これに対し、最高裁令和元年8月9日判決(民集73巻3号293頁)は、前記のように、「民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,
「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。」
と判断しました。なお、この判決の事例は、前記の設問で言えば、被相続人Aの本来の相続人が相続放棄をした結果、次順位のBが相続人になった事例で、そのため、Cは、BがAの相続人であることを知らなかった事案でした。
この判決は、この判断の理由を、民法916条の趣旨は、再転相続人(本件ではC)の第1の相続(A→B)における承認、放棄等の選択の機会を保障することにあるとし、CがAの死亡を知っていても、BがCの相続人であることを知らないのに、熟慮期間を起算するとすれば、選択の機会を保障した趣旨に反するとしています。そこで、再転相続の第1の相続(A→B)と第2の相続(B→C)の熟慮期間は、別のものであるということになりました。
このように、再転相続は、複雑なため、2回の相続が短期間にあり、かつ、放棄等を検討する必要がある場合は、相続に強い弁護士に相談されることをお勧めします。
【参照条文】
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
【再転相続 2】熟慮期間
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