判例紹介:非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とした民法900条4号ただし書前段を違憲とした最高裁平成25(2013)年9月4日大法廷決定(民集67巻6号1320頁)

この記事においては、この決定の効力が判決の事実上の効力によって、どこまで遡るか、つまり、いつから、非嫡出子の相続分と嫡出子の相続分が等しくなったかについて、記載します。

この判決については、「昭和23年から現在(令和6年)までの相続に関連する法律の改正の経過:相続人、相続分等はどのように変わってきたか」の記事の「2」「(2)最高裁判例」「ア 最高裁平成25(2013)年9月4日大法廷決定(民集67巻6号1320頁)により非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分が等しくなりました。」と記載し、法律が施行され、「したがって、平成25年9月5日以後に被相続人が死亡した場合、その相続における非嫡出子と嫡出子の相続分は等しくなりました。」と記載させていただきました。

上記は、改正法それ自体の効力です。しかし、法律の効力だけではなく、最高裁の判決には、事実上の拘束力があります。この大法廷判決の効力は、改正法より、遡ることになります。そこで、この問題について、記載したいと思います。

本事案の概要

平成13年7月、Aが死亡し、相続が開始しました。Aの相続人は、妻Bとその子供であるC1、C2、および、既に亡くなっていた子D(平成12年1月死亡)の代襲相続人であるC3、C4です。また、Aと婚姻外のEの間に生まれた子供であるF1、F2も相続人に含まれます。その後、平成16年11月にBも死亡し、その権利義務はC1~C4が相続しました。

このような状況のもと、C1~C4はF1、F2に対して遺産分割の審判を申し立てました。F1、F2は、民法900条4号ただし書前段が憲法14条1項に違反して無効であると主張しましたが、第1審および原審の裁判所は、この規定を合憲とした最大判平成7年7月5日の決定(民集49巻7号1789頁)を引用して、この主張を退けました。F1、F2はこれに対して特別抗告をしました。

最高裁の決定の内容

平成25(2013)年9月4日の本決定は、非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと定めた法律(民法909条4号ただし書)について、

① 嫡出でない子の相続分に関する規定が遅くとも平成13年7月においては違憲であったとするとともに、

② 違憲判断は、平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
と判示しました。

説明

この最高裁の大法廷決定により、民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分が違憲であると判断されたため、「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)が成立し、対象となる民法第900条第4号ただし書が削除され、非嫡出子と嫡出子の相続分は等しくなりました

この法律は、公布の日である平成25年12月11日から施行され、経過措置としては、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとされました(附 則 (平成25年12月11日法律第94号))。したがって、平成25年9月5日以後に被相続人が死亡した場合、その相続における非嫡出子と嫡出子の相続分は等しくなりました

しかし、これは、改正法の効力によるものです。最高裁により、違憲判断がされると、その先例としての事実上の拘束力により、その後の同種の紛争も、裁判所は、当該最高裁で示された準則に従って処理することになります。

また、この非嫡出子の相続分を定めた規定については、原審に引用された最大判平成7年7月5日の判決などの従前の最高裁は合憲と判断してきました。

本決定の場合も、単に、本規定が違憲とだけ決定に記載すると、いつから違憲なのか、いままで、合意した遺産分割の効力がどうなるかが問題となってしまいます。

そこで、本決定は、前記のとおり、本決定の事案の相続開始時である「遅くとも平成13年7月」以降は、本規定が違憲としつつ、「平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。」としました。

そこで、本決定の事実上の拘束力により、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続について、本決定後に遺産の分割をする場合は、最高裁判所の違憲判断に従い、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等のものとして扱われることになります。他方、平成13年7月1日から平成25年9月4日(本決定の日)までの間に開始した相続であっても、遺産の分割の協議や裁判が終了しているなど、最高裁判所の判示する「確定的なものとなった法律関係」に当たる場合には、その効力は覆りません

問題は、本決定は、「遅くとも平成13年7月」としているため、では、どこまで、本規定が違憲という時期が遡るかです。

本規定を合憲とした平成7年7月5日の最高裁の大法廷決定の後、①最高裁平成12年1月27日、②平成15年3月28日、③平成15年3月31日、④平成16年10月14日、⑤平成21年9月30日に本規定を合憲とする判決が出されています(なお、いずれも反対意見がつけられており、補足意見においても意見の疑いが強いことを指摘するものも少なくはありませんでした。)。

そして、憲法適合性判断の基準時を各事案の相続開始時とすると、平成7年大法廷決定の事案における相続開始時は、昭和63年です。そして、その後の判例で、もっとも相続開始時が新しいのは、判例②~④(これらは、同一の被相続人についての事案です。)の平成12年9月です。

本件の最高裁の判決は、積極的に従来のこれらの判決を変更しないとしていますので、少なくとも、これまで最高裁が本件規定を合憲と判断してきた平成12年9月までは本件規定は合憲と判断していると考えられます。

結局、同規定が違憲となったのは、平成12(2000)年9月から平成13(2001)年1月までのどこかで、違憲になったということで、この期間がグレーゾーンとなることになります。とはいえ、本件判決が判示するように、すでに、解決済みとなっている遺産分割については、改めて、相続分が問題となることはありません。

他方、未分割の遺産分割について、今後、新しい判例がでれば、また、上記の期間の範囲が狭まっていくことになります。

この記事は令和6(2024)年に作成していますから、平成12~13(2000~2001)年というのは、今から20年以上前に相続開始があった事件が問題となるということです。普通の事件であれば、このような長い時間がたってから、初めて問題となるということは珍しいです。

しかし、遺産分割事件の場合、このような事件はままあります。この1年に限っても、私が関与した事件で、相続開始が昭和30年代のものや、平成1~10年のものがありました。

20年以上前の未分割の遺産分割は数次の相続の一部であることが多く、東京ですと23区内の不動産が遺産になっているものもあります。そのような案件の場合、非嫡出子として、相続分が嫡出子と同じになるか、半分になるかは大きな差になります。

このような相続開始時が昔の遺産分割が含まれる案件では、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。