85歳の夫が亡くなりました。夫と妻である私は二人暮らしで、夫の遺産は、自宅の土地・建物だけで債務も特にありませんでした。
ところが、夫の亡くなった後、相続人が私以外に10数人いることがわかりました。夫の両親は既に亡くなっていましたが、夫の両親は離婚後再婚し、それぞれに、子供がいたため、夫には、7人もの兄弟がおり、さらに、その内で亡くなった方もいたため、その子供の方も相続人となってしまったということです。
法定相続分としては、私が4分の3で、後の方は、全体で4分の1ということです。夫の出身地は、F県でしたが、他の相続人の方は、東京都等様々な地域で生活されているようです。
どうすれば、よいのでしょうか。
相続人が多数になるケースの一つが、お子様がいらっしゃらないご夫婦が亡くなられた場合です。

法律が定める相続人は、配偶者がいれば必ず相続人になる前提の上で、亡くなられた方(被相続人)にお子様もおらず、ご両親も亡くなっている場合は、配偶者と兄弟姉妹となり、その法定相続分は、配偶者の方が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
また、兄弟姉妹が亡くなられている場合は、その子供も相続人となりますが(代襲相続)、さらにその子供が亡くなっていても、その子(孫)は相続人になりません。

特に、被相続人のご両親が離婚等の後で再婚し、子供がいる場合などは、相続人が増えることになります。
私も今まででうけた事案で一番多かったのは、相続人が30人弱の事案でした。

兄弟姉妹には、遺留分がないため、お子様がいないご夫婦の場合は、被相続人が生前、全財産を配偶者に相続させる内容の遺言書を作成しておいていただけると解決することがほとんどですが、なかなか遺言書までは準備できないようです。

本件の場合は、ご夫婦の1人だけが亡くなられた場合なので、配偶者である相談者以外の相続人の相続分が合計でも4分の1です。
そこで、弁護士が委任を受けた場合は、まずは、各相続人に、手紙等で、相続の放棄を行うか、または、配偶者である相続人に無償で相続分の譲渡をしてもらえないかを、頼むことになります。
遺産を相続しないことを頼むことになりますが、本件のように配偶者がおり、遺産が巨額でない場合は、相続しない方もそれなりにいらっしゃいますし、相続人の数が減れば、遺産分割も迅速に行えます。

相続の放棄は、被相続人の債務を含め相続しない効果がある点で、相続人にも受け入れられやすいメリットがありますが、①相続開始を知った時より3ヶ月以内に、②相続の開始地の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出しなければならない点で、ハードルが高く、一般に弁護士が受任を受けるのは相続開始後3ヶ月以上経った場合が一般で、特に多数の相続人がいる場合は、連絡に時間が掛かることもあり、本件のようにさしたる債務がない等の場合は、相続分の譲渡だけを使うことが多いです

相続分の譲渡とは、相続人が相続分を譲渡することです。
相続分の譲渡により、相続分を譲り受けた人は譲渡した人が有していた持ち分割合をそのまま承継し、遺産分割手続に関与することになります。
他方、譲り渡した相続人は、遺産分割手続における当事者ではなくなります
相続分の譲渡を行うためには、相続分を譲渡される方に、相続分譲渡証明書等の書式に署名・実印での捺印をしていただき、印鑑証明書を添付していただくことになります。

このように、まずは手紙等で連絡し、相続分の譲渡等していただければよいのですが、返答をいただけなかった場合や法定相続分の代償金を求める方がいる場合等は、遺産分割調停を申し立てることになります。

調停においては、出席できる方には出席していただくことになりますが、このような事案では、出席される方は少数です。

相続分の譲渡を行った相続人については、調停または、後記の調停に代わる審判の際に、排除する形となるのが一般ですが、遺産の不動産の管轄法務局の対応によっては登記のために残すケースもあります。

返答をいただけない方については、再度、弁護士が連絡し、相続分の譲渡を行っていただけるということであれば、郵送又は訪問で手続を進めます。

相続分の代償金を希望される相続人に対しては、不動産の場合は、裁判所と当該相続人に対し、2つの業者の不動産の査定を提出・郵送等します。
当該相続人から異議と異議を裏付ける資料等が提出されなければ、裁判所より、調停に代わる審判が出され、2週間以内に当該相続人から、異議がでなければ、確定し終了します