母が亡くなりました。母の相続人は、兄、姉、私です。母は、遺言書を残していましたが、その内容は、母の遺産の2/3を兄に、1/3を姉に相続させるもので、私の相続分はありませんでした。

このような遺言書は、遺留分を侵害しているもので、私は、法定相続分の半分の1/6を兄と姉に遺留分侵害額請求権で請求できるということを聞きました。ただ、遺留分侵害額請求権は、1年間行使しないと行使できなくなるとも聞きました。いつから、1年間なのでしょうか。

また、行使のためには、調停を起こさなければならないのでしょうか。

遺留分侵害額請求権(改正前の遺留分減殺請求権も同じですが)は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知っただけでなく贈与や遺贈が遺留分額を侵害することを知った時から」1年間行使しないときは、時効により消滅します。

なお、仮に上記を知らない状態が続いたとしても、相続開始から10年が過ぎますと遺留分侵害額請求権は、時効により消滅します。

本設問の場合で言えば、被相続人である母が死亡したことだけではなく、相談者の遺留分を侵害するような遺言書が残されていることを知った時から、1年間の期間が起算(カウント)されることになります。

この場合の行使とは、相手方に自分が遺留分侵害額請求権を行使することを意思表示すること、つまり、相手方に、遺留分減殺請求権を行使することを伝え、これが相手方に到達することです。
また、この行使の際は、具体的な金額の提示までは必要なく、請求権を行使することを記載すれば足ります
とはいえ、期間の制限があることですので、その期間内に意思表示を行ったとの記録(証拠)を残すことが重要です。

なお、遺留分侵害額請求調停の申立が行使に当たらないことは、「遺留分侵害額請求権の行使(調停・訴訟)」にも記載したとおりです。

遺留分侵害額請求権の行使の際、通常、使われるのは、配達証明付きの内容証明郵便です。
内容証明郵便は、郵便局にその内容が保存される郵便です。内容証明郵便を発送する場合は、書留郵便とし、配達証明を付けると、相手方に到着した日を記載した葉書が配達局から送付され、その葉書により書留郵便物を配達した事実が証明できます。

内容証明郵便と配達証明は、別のサービスなので、発送の場合は両方のサービスが付くよう注意が必要です。

内容証明郵便は、不在や受領拒絶されると戻ってきてしまいます

この点については、相手方不在のために郵便物を受け取らなかった場合にも、郵便局員によって不在配達通知書が残され、それによって郵便物の内容を推測できたときは、遅くとも留置期間満了の時点で到達があったものとする判例があります(最高裁平成10年6月11日民集52巻4号1034頁)。

このような判例はありますが、受領拒絶等のおそれがある場合は、念のため、配達証明付内容証明郵便と普通郵便を同文で同時に発送します
そして、その両方の文面に、内容証明郵便と普通郵便を同文で発送したことを記載するのです。こうすれば、例え、内容証明郵便が受領拒絶されても、普通郵便は到達することになり、そのことが記録されます。

さらに心配な場合やギリギリの場合は、相手方の家に行き、手紙の内容及び、その手紙を相手方のポストに入れる写真を撮影するなどの手段をとることもあります。

このように遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分侵害者に対し、金銭請求債権が発生します。
ただし、この債権も、行使の時から5年(2020年4月1日の民法の債権法改正の施行前に行使の場合は、10年)で消滅時効になりますので、この点も注意が必要です。