3年前に父が亡くなりました。
父の相続人は、私を長女とし、AとBを弟とする3人兄弟です。
父の遺産は、自宅の土地・建物(以下「本件不動産」といいます。)と現預金、株式等です。
弟2人は、仲が悪く、そのため、遺産分割の話し合いがつきませんでした。
弟Bは、お金に困っており、あまり、たちがよくないところからも借りているようで、早く、遺産分割を済ませて、お金を分けてくれと言っていました。
ところが、あるときBが、本件不動産についての自分の共有持分(3分の1)をDに売却したと言ってきました。
慌てて、登記を調べると、私たち3人の相続による3分の1ずつの共有の登記が設定され、そのうち、Bの持分(3分の1)について、売買を理由にするDへの移転登記が設定されていました。
どうして、このような登記が設定できたのでしょうか。
私もAも登記に同意したこともありませんし、委任状や印鑑証明書をBに渡したこともありません
また、今後は、Eを相続人として、遺産分割協議をしなければならないのでしょうか。
法定相続分による共有の相続登記は、相続人であれば、単独で申請し、設定することができます
さらに、その不動産の相続による共有持分を譲渡(本件ではBからD)した場合は、BとDにより、その持分の移転登記を行うことができます

そして、この場合、譲渡されたのは、特定の不動産の(相続の)共有持分であり、相続分の譲渡(相続人の地位又は遺産全体に対する持分)ではないので、相続人は、Bのままです。
したがって、遺産分割協議は、相談者、B、C間で行うことなります。
ただし、本件不動産については、第三者であるDも共有持分を有することから、今後、共有物分割を行う場合は、遺産分割調停等ではなく、共有物分割訴訟で行わなくてはなりません

以下、なぜ、このような結論になるかをご説明します。

本件でいえば、本件不動産について、Aの死亡による相続の登記を行うためには、原則として、遺言書や遺産分割協議書等を添付して、相続人全員で申請することになります。
しかし、例外として、法定相続分での共有による相続登記を行うについては、このような書類の添付は不要で、相続人が単独で行うことができます

このため、Bは、法定相続分での共有による相続登記を行うことができます

そして、本件不動産は、相談者及びCの遺産共有とDのいわゆる物権共有が併存することになることから、本件不動産の分割の手続としては、遺産分割手続ではなく、共有物分割訴訟となります
この点については、本HPの「遺産共有と他の共有が併存する場合の共有物分割の方法」の記事に記載しています。

また、法定相続分での共有による相続登記の設定は、遺言書や遺産分割協議書等の添付は不要で、相続人が単独で行うことができることは、他の論点でも、重要になります。

例えば、遺言書や遺産分割協議書等の添付が不要ということは、仮に遺言書があっても、先に登記を申請すれば、法定相続分での相続の登記ができてしまうということです

本HPの記事で、「相続法(民法の相続部分)の改正により生じた遺言執行の落とし穴-登記を迅速に」や「遺言書の実現の仕方」で遺言書があるにも関わらず、他の相続人の(相続の)共有持分が譲渡されたり、その危険性を恐れなければならないのもこれが理由です

また、法定相続分での共有による相続登記は、遺産分割協議書等の添付が不要で、相続人に単独でできるため、仮にこの登記が設定されていても、遺産分割協議があったかどうかは、この登記だけではわかりません

ところが、相続開始後、相続財産が遺産共有からいわゆる通常の物権共有に変わるのは、遺産分割協議が成立した時点です。
そのため、法定相続分の共有による相続登記だけでは、遺産共有なのか物権共有かがわからないことになります。
そこで、その共有不動産の分割方法を知るためには、当事者に遺産分割協議をしたのかどうか、遺産分割協議書があるかどうかを確認しなければならないのです
この点についても、本HPの「共有物分割訴訟と遺産分割調停のどちらを選択すればよいか」に記載しましたので、参考にして下さい。

どちらにせよ、本件や上記に記載したような状態になった場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。