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父が亡くなり、相次いで、母が亡くなりました。
父と母の相続人は、私たち男ばかりの3人兄弟だけです。
父と母の遺産は、東京にある自宅の土地・建物だけです。
ところが、一番下の弟がその自宅に住んでしまっています。
このような場合、明渡は難しいようですが、残りの私たちの相続分の地代相当額を請求することはできないでしょうか。 -
先日、「遺産の持分の価格が過半数を超える者が単独占有する他の相続人に対し明渡請求をすることができるか」
https://www.kawai-sozoku.com/qa/kyoyubutsu/
との判例紹介(最高裁昭和41年5月19日判決 民集20巻5号947頁)で、住んでいた他の相続人の占有を強奪したような場合について、明渡を認めた裁判例があること(仙台高等裁判所平成4年1月27日判決 金融・商事判例906法26頁以下)、その他の場合はなかなか明渡が認められないことは、ご説明したとおりです。そこで、明渡ができない場合に、他の相続人が相続分の割合に応じて占有部分に係わる地代相当額の損害賠償金等を請求することができないか、単独占有している相続人に占有を正当化する権限があるかどうかが問題となります。
こういう場合、単独占有している相続人の方は、賃料等は払っていないことから、具体的には、使用貸借契約(無償で借りる契約)が認められるかどうかが問題となります。
これについて、最高裁判所平成8年12月17日判決(民集50巻10号2778頁)は、
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」
とし、被相続人の生前に同居していた相続人について、遺産分割が完了するまでの使用貸借の成立を推認しました。したがって、このような相続人については、他の相続人は、相続分に応じて占有部分に係わる地代相当額の損害賠償金等を請求することはできません。そこで、他の相続人が相続分に応じた賃料相当額の損害賠償請求権を請求できる場合としては、被相続人の死亡後に占有した等、占有相続人が被相続人の承諾を得ないで遺産建物に居住した場合や、その建物が居住用ではない場合、同居していても遺言や遺贈により第三者に居住建物の所有権が移転した場合などに限られることになります。
なお、配偶者がその相続人の場合には、平成30年相続法の改正により、相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた場合は、被相続人の意思に関わらず、遺贈等で居住建物の所有権を取得した者が消滅の申入れをした時から6ヶ月が経過するまでは、居住権を有することになりました(民1037条1項2号)。
本件の場合、弟がお父様やお母様の亡くなられた後、その建物の居住を始めた場合などは、他の相続人であるご兄弟は相続分に応じた賃料相当額の損害賠償請求権を請求できることになります。
ただし、この場合も、長期間放置していると、相続人間で、黙示で使用貸借契約が成立したと後で、裁判で認定されかねませんので、注意が必要です。他方、お父様やお母様の生前から相続開始時を経過して現在まで、その建物に継続して居住していた場合で被相続人も特に反対の意思を表示していなかった場合は、使用貸借契約が推認され、請求を行うことはできません。
そこで、請求できない場合は、本件問題を解決するためには、早期に遺産分割の協議、遺産分割調停・審判の申し立てを進めることが必要です。
相続人の1人が遺産を単独で占有している場合、他の相続人が相続分等の持分割合に応じて占有部分に係わる地代相当額の損害賠償金等を請求することの可否
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