父が10年前に死亡し、私たち兄弟2人が相続しました。
父は、投資家で、遺産の大部分は株式です。
その他は、多少の現預金と自宅の土地・建物(不動産)です。
私たち兄弟は不仲なため、いままで、遺産分割の話が長引いてしまいました。

私たちだけでは、話し合いができないため、調停を申立てようと思います。
兄は、最近、株式の値段が上がっていることから、父の亡くなった10年前の低い価格で株式を評価して、全部の株式は自分が取得すると言っており、その他の現預金と自宅の土地・建物(不動産)を私に渡すと言っていますが、納得できません。
また、父の生前、社会人になるときに、兄は500万円を贈与されています。
調停においては、どのように遺産を評価するのでしょうか。また、特別受益がある場合は、評価の方法が変わるのでしょうか。

調停においては、遺産分割については、不動産、有価証券等の遺産の評価は、遺産分割時点(現実に分割する時点)です
ただし、特別受益が問題となる場合は、遺産の評価を相続開始時(被相続人が死亡した時点)でも行わなければならないため、結局、2時点で遺産を評価しなければならないことになります。

このように、特別受益が問題となる場合は、評価の時点はこのように異なりますが、評価の方法自体は、変わりません

東京家庭裁判所では、相続人の範囲、遺産の範囲の後に、遺産の評価を話し合います。
他の家庭裁判所では、順番を決めていないところが多いですが、やはり、遺産の評価の話し合いは行います。

不動産の評価は、公示価格、都道府県地価調査標準価格(地価調査標準価格)、固定資産税評価額、路線価を参考に話し合い、当事者間で合意できないか話し合います。
また、双方当事者より不動産会社の価格査定書が提出され、これに基づき話し合うこともあります。

当事者間で評価についての合意ができれば、これによることになりますが、合意できない場合は、鑑定を行うことになります。
なお、本HPの「相続と不動産の評価」の記事に、上記の各価格の詳しい内容等記載しています。

株式については、相場のある株式については、評価日における最終価格(終値)によって算定されます。
具体的には、日経新聞や東京商品取引所のホームページのマーケット情報をもとに算出します。
このような株式については、評価に争いが起こることは少ないです。

問題は、非上場の株式です。
非上昇株式の場合は、通常、税務上の評価の基準である財産評価基本通達における①純資産方式(会社の総資産価格から負債と法人税などを控除した純資産価格を発行済株式数で除して評価する方法)、②配当還元方式(会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で除して評価する方法)、③類似業種比準方式(会社と類似する業種の事業を営む会社群の株式に比準して評価する方法)、④収益還元法(将来の予想年間税引後純利益を資本還元率で除したものを発行済株式総数で除して評価する方法)、⑤混合方式(①~④の方式を組み合わせて評価する方法)を使って、各当事者が評価についての主張を行い、話し合うことになります。

合意ができない場合は、鑑定を行うことになります。
鑑定は、裁判所が選任した公認会計士が行うことになりますが、不動産の鑑定に比べ鑑定料が高額になるのが通常です。

前記のとおり、遺産分割における遺産の評価は、遺産分割時点(現実に分割する時点)で行うことになります。
これは、相続開始時(被相続人の死亡時)を基準とすると、分割時に価格の下落した遺産を取得する相続人と価格が維持または上昇した遺産を取得する相続人の公平が害されることによります。

ただし、特別受益が問題となる事案については、条文(民法903条)に「被相続人の相続開始時の時に有した財産の価格」と記載されていることから、相続開始時を基準として、遺産を評価することになります。

そこで、特別受益が問題となる事案については、遺産分割時のほかに相続開始時の2時点の遺産の評価も必要になります。

遺産の評価は、遺産分割調停における一つの山場ですが、準備が不十分等、安易に合意しているのではないかと見受けられる事例もあります。

遺産の評価で悩まれた場合は、弁護士に相談することをお勧めします。